• 院長ブログ

私が日本一説明と納得の多い歯科医院を目指す理由

当院の目標の一つとして「日本一説明と納得の多い歯科医院」を目指すというのがあります。それは自分自身の経験から考えさせられたものです。その事についてお読みいただければ幸いです。

とよた歯科クリニックでは「初診カウンセリング」というのをしています。最初に患者さまがこられると、まず、私ではなく、スタッフがいろいろなお話を聞かせていただきます。ここで、患者さまから結構本音を聞くことができます。直接ドクターに言いにくいことも・・・。
昔患者さまに言われた事があるのですが、歯医者さんにいくといきなり、診療台に乗せられて、「先生」が出てきて。もー、椅子も倒されてて よくわからん説明されて「しっかり口開けてくださいね!」なんて・・・。
あー、怖い。 
歯医者さん怖いわ。

「前歯から治してほしい」とか
「保険以外はいやだ」とか
「結婚式まで2週間しかなくて、それまでに何とかして欲しい」とか
「歯石取る音が死ぬほどいやだ」とか。
「いついつしかこれない」とか。
 なかなか「先生」には言えない事。自分としてはそれを聞いておきたいのです。自分なりにベストな治療をしているつもりでも、それが患者さまの要望とかけ離れていたら、それは、プロ失格だと思うからです。
この考え方は、批判的な見方もあるかもしれません・・・。
 「正しい診断を元に、正しい治療をしなさい」というような。
私は「正しい診断を元に、患者さまの希望を治療計画に取り入れ、患者さまの為になる治療をしなさい」というのがこれからの医療のスタンダードになっていくと思っています。
世の中も少しづつ「インフォームド コンセント」ではなく「インフォームド チョイス」に変わってきていますよね。スタッフのカウンセリングはもちろんですが、私自身患者さまの声をしっかり聞くように心がけています。
こんな考えに至ったのは、自分自身の、ある経験があるんです。結局は誤診だったんですが「腎臓がん」を宣告された経験が。

それは忘れもしない。大学を卒業し、新人医局員として大学病院に入局したその年でした。「白い巨塔」さながら、新人医局員の生活は朝の掃除、ゴミだし、郵送物の仕分け処理に始まり実験、臨床、技工、学会出張でフル活動。一日16時間は働いていたと思います

そんな中、変な話おしっこが赤くなったんです。
高校の部活時代にもそんな事があったので、最初は「やっぱ疲れてるな~」位にしか思わなかったんですがこれがなかなか止まらない。1、2カ月つづき、さすがにまずいな、と。
上司の目を盗んで、しかも大学病院内を受診するのがどうも気が引け近くの某総合病院を受診しました。CT、MRI、内視鏡の検査。
担当医は50過ぎのやせ形の少し神経質そうな先生でしたが、腎臓に多数の「のう胞」がある。そしてそれが境界不明瞭だと告げました。「君も勉強したでしょ。意味わかるよね。」と。国家試験でもキーワードになるくらい「境界不明瞭」「出血」といえば病名は「悪性腫瘍」以外ありません。
頭の中が真っ白になりました。その時、医師が言うには「まだ、可能性があるというだけで悪性とは決まってない」「とりあえず手術をしなさい。2週間入院するだけだから」
「出血部位が分かり、良性ならその部分を焼けば出血も止まる」「とにかく今日にでも入院しなさい!!!」
「悪性の可能性?」「手術?」「2週間入院?」「腎臓を焼く?」頭の中をぐるぐるまわりました。
その時私は、今仕事を抜け出していて、出来るだけ早く帰らないといけないこと。突然手術といわれても仕事もあるし難しいこと。そして、月給は10万円程度の時代で、入院するようなお金がないこと。をやっと告げました。
その医師は、「えっ!何言ってんの?」「自分の体のことでしょ?」「仕事なんか休みなさい。」「お金は親に頼めばいい!」そしてもう一度「2週間入院して手術するだけなんだから!」と言い放ったのです。
その医師にとって入院して手術することは簡単なことかもしれません。ただ、その時の自分にとって、それはあまりに大きな事でした。

とにかく時間が欲しいと言い残し、その場を逃げるように去りました。
その日は大学病院に帰り、普段通り仕事をして、親しい友人に相談してみましたが、特別いい答えが出るはずもなく、 結局、出た結論は同じ手術をするにしても、なんとなく大学病院の方がよさそうだからもういちどそっちを受診した方がいいのでは、という事だけでした。
某総合病院に出向き、勇気がいりましたが、 「近いから」という理由をつけて、大学病院に転院したい事。また、同じ検査をすると費用がかかるので、画像などを出してもらって大学病院に持参したい旨を伝えました。その行為は神経質そうなその医者のプライドを相当傷つけたようで、あからさまにいやな対応をされたことは覚えています。結果的に、診査結果や画像をいただくことはできましたが。

大学病院に帰り、次の日に診察と追加の造影CTをとることができました。
結果がわかる次の予約まで、10日はあったと思います。長かったこと。ここですぐ誤診がとけて、ハッピーエンドとなれば話は早いのですが大学の先生の説明もやはり内容は同じものでした。「のう胞」「境界不明瞭」「出血」「癌の可能性」ただ、その話し方が全然違っていたんです。
まず、共感してくれたんです。
20代の若さでありながら、悪性が発見された恐怖心。研修医時代に病院をあけるなんてとんでもないという心境。 費用の事。そう簡単に親にも頼めないこと。オペに対する恐怖心。その先生は、まず理解を示してくれました。
某総合病院の先生もよく知っているようで
「あの人なー。腕は悪くないんよ。心底悪い人じゃないんじゃけどね。」
「ただ、一方通行なんよ。入院してオペしなさい!!!の一点張りでしょ。」
「あの先生らしいな~」
「悪気はないんよ。許してあげて!」
こんな会話がありました。今でもよく覚えています。もちろん、診断結果は同じでした。
ただ、その先生は少し経過をみて、自分の気持ちが落ち着くまでは様子を見ようと言ってくれました。1年ごとにCTをとり、明らかに大きくなるようならオペをしよう。それまでにゆっくり考えなさい、と言ってくれたのです。

診断も同じ、するべき事も同じ。でも、言い方一つでこんなに信頼感が違うのかと思いました。この先生なら(腕はわからないけど)手術してもいいかなと思ったほどです。

この腎臓ののう胞が「単純性のう胞腎」といって、先天性の奇形ではあるが、疾患ではないこと。悪性化する可能性が極めて少ないこと。が分かったのは経過観察を続けて、自分が総合病院に勤めるようになりそこで診断を受ける5年後の事だったんですが・・・。
自分自身の経験を通して、医者の病状の伝え方の大切さ、そして、その患者さまの背景を無視して治療方法を決めることの罪を感じました。
どんなに腕が良くても、最初の先生のようにはなりたくない。病状だけを一方的に伝えて、オペがうまい、かっこいい先生よりも腕がいいのは当たり前の事として、患者さまの気持ちを考えて、共感を示し、背景を理解して、それにあった提案ができるドクターになりたいと思うようになりました。
費用もかかるし。恐怖心だってあるし。時間の制約もある。
でも、医師としてそれを言い訳にせず、その患者さまにとって、その時の最良の治療ができたらと思っています。
あくまでも、対象は「疾患」ではなく「人」だから。
もちろん、一番大事なのは適切な診断です。患者さまの主観的な希望を、ただ無責任に受けいれることが妥当な治療結果を生まない場合だってあります。
しっかりとした診査を元に、客観的な診断を行い、生活背景も考慮に入れた治療計画を立てる。そして、患者さまの希望と、妥当な治療にギャップがあれば、理解できる形で十分に説明する。
ある意味、「ドクター、患者さま双方参加型の医療」。
こんな医療ができたらな、と思っています。
と、いうことで・・・・・・・・・
今日も「日本一説明と納得の多い歯科医院」を目指して
「初診カウンセリング」から「診査・診断」 。
そして、患者さまにお口の中が現状、どんな状態で、どのような治療方法があるのか、しっかり説明をしていきたいと思います。
まだまだ不十分な点もあるかと思いますが
がんばっていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

長文読んでいただきありがとうございました。